今なお色褪せることなく、世界中のクリエイターたちに影響を与える《 あんとき 》の裏原シーンの功績は、世界に誇る東京発の新たなカルチャーをクリエイトしたことはもちろん、極端に少ない発売数によって希少価値を高める限定アイテムの考案や人気ブランド同士の共作によって話題を生み出すWネーム、そして、事前に告知をせずに話題のアイテムをリリースするゲリラ的販売手法などを通して、ボクらのショッピング体験に革命をもたらしたことにありました。
EC や SNS での新作リリース情報が当たり前になった現代では、こうした不効率だけれども、ワクワク・ハラハラ・ドキドキに溢れたショッピング体験を味わえる機会がめっきり減ってしまいましたが、先日、編集部の野田が WHIZLIMITED ( ウィズリミテッド ) の旗艦店 WHIZ TOKYO ( ウィズトウキョウ ) の20周年を記念したスペシャルアイテムの行列に遭遇し並んでみたところ、欲しいアイテムを手に入れようと必死になって頑張っていた《 あんとき 》の思い出が甘く切なくよみがえり、こう思ったと言います。
「 発売するものはおろか発売日までSNSで告知されて、発見する楽しみや、ワクワク・ドキドキの買い物体験が削がれつつある昨今にあり、WHIZLIMITED の記念アイテムは毎回何が発売されるか分からない。それなのに、いや、だからこそファンの方々は『 何が発売されるのか? 』という期待感を膨らませて列に並ぶ。あえて何が発売されるか明かさないという販売方法、そして並びながら色々と想いを馳せるこの感覚。もしかして、WHIZ TOKYOは、《 あんとき 》の裏原体験が今も味わえる超希少なスポットなのでは !? 」と。
そこで今回の MIMIC では、裏原の諸先輩方に影響を受けながらも裏原に続く次世代ブランドとして’00年に誕生した WHIZLIMITED と、そのフラッグシップショップである WHIZ TOKYO にフォーカス。特に MIMIC 編集部が《 あんとき 》感を強く見出した、裏原を代表する人気ブランドとスペシャルなコラボや事前告知のない販売スタイル、そして、初期「 NOWHERE ( ノーウェア ) 」の内装を手がけた m&m と作り上げた店内などについて、主宰者の下野宏明さんに話をお聞きしました。
下野宏明(したの・ひろあき)
LUMP co.,ltd. 代表。1976 年生まれ、東京都出身。’95年に高橋勤と共に Rebirth ( リバース ) を立ち上げる。ROOKEY FOR HOUSEHOLD ( ルーキー・フォー・ハウスホールド ) を経て、2000年に WHIZ ( ウィズ ) をスタート(ブランド名は2003年に WHIZ LIMITED に、2021年に WHIZLIMITED に改称)。旗艦店である WHIZ TOKYO は、LUMP ( ランプ ) 時代から今年で数えて20周年を迎えた。2015年には、東京ファッションアワードを受賞
先日、WHIZ TOKYO 20周年を記念したスペシャルアイテムの発売に並ばせていただきまして
ありがとね。言ってくれれば、よかったのに(笑)
常連の皆様も並んでいたので、ボクも昔を思い出しながら久しぶりに並ばせてもらいました。事前告知も一切ないなか、「 どんなアイテムが発売されるんだろう? 」と期待に胸を膨らませながら並ぶのが、《 あんとき 》感を呼び覚まされてすごく新鮮でした。
しかも m&m が内装を手がけた店内で買い物ができ、コラボアイテムを見ても m&m や7STARS DESIGN ( セブンスターズ デザイン ) といった個人的に1番裏原がアツかったと感じる時代を彷彿させるブランドとの共作が並んでいる。そんなことを思っていたら WHIZ TOKYO って、ボクらが夢中になった《 あんとき 》の裏原体験が今も味わえるすごく希少なスポットなんじゃないか、と思いまして
特に意識しているわけではないんだけどね
MIMIC の読者にも当時を知らない若い子たちも増えてきているので、本日はボクらが WHIZ TOKYO に見出した“裏原感”にスポットを当てながら、お話を聞かせていただければと思います。勝手なこじつけもあるかもしれませんが、そこは裏原の魅力に魂を引かれたオールドタイプの戯言と受け流してください (笑)
よろしくお願いします
m&m が内装を手がけた WHIZ TOKYO が完成するまで
早速なんですが、まずは m&m が手がけた内装についてお聞きしたいんですが、こちらの店舗に移られたのは2010年でしたよね
そう。ブランド10周年のタイミングで
それよりも前の店舗は m&m が手がけた内装ではなかったですよね?
うん、それまでは Landscape Products ( ランドスケーププロダクツ ) にお願いしていた
もちろん、あるよ。当時はまだ、ムラくんと知り合いではなかったんだけど、裏原の地にブランド初となる路面店を構えることになったので、どうしても m&m にお願いしたいと思って。なかなか仕事を受けてもらえないのはわかっていたけど、一度はちゃんとお願いしてみないと心残りになると思って、ELT チームに紹介してもらったんだよね
すんなり承諾いただけたのですか?
依頼するにもどうやってお願いすればいいのか、勝手がわからないところもあって。あるとき、紹介してくれた方が少しビビった様子で「 今からムラくんが来るんだけど、どこどこのクラブに来れる!? 」みたいな電話がいきなり携帯にかかってきたんだよね。
そのとき、僕は事務所にいたんだけど、電話の向こうがただならぬ雰囲気だったんで、スタッフに「 揉め事覚悟でちょっと行ってくるわ 」と告げて、ものすごい気合い入れて行ったのを今でも覚えてる(笑)
《 あんとき 》っぽくて、いい感じですね(笑)
で、たしか六本木かどっかのクラブに行って初めて会ったんだけど、もうオーラがスゴすぎちゃって。でも、ここでちゃんと話さないと後悔するなと思って、これまで自分がどんな思いでブランドを続けてきたかとか、こういうお店をやりたいと思っているという考えをしっかり伝えたんだよね
昔から憧れていたということも伝えたのですか?
というよりも、自分をしっかり伝えた感じかな。というのも、ムラくんはノリやお金で仕事をする人ではないし、ある種、人として認めてもらえないと仕事を受けてくれない人だと思うんだよね。ブランドが有名か無名かとかはあまり関係なくて、「 コイツのためだったらやってやろうか 」と思ってもらえるかが重要というか。なので、その後も何回か会ったんだけど、気合が入っているとか、そういう人間性を見られていたと思う
お金儲けではなく、ポリシーやスタイルを重んじる。裏原のカッコよさの源泉というか、ボクらが憧れた部分です
そこに、m&m に仕事を依頼する難しさもあるのかもしれないね。この壁を越えられないから、なかなか仕事を受けてもらえないというか。でも、それまで裏原の先輩たちとガッツリ仕事で絡むことはなかったから、ブランドを立ち上げてから一番ピリついた経験だったんじゃないかな(笑)
そうして完成したお店のデザインやアイデアは、下野さんからのオーダーだったのですか?
これはもう全部、ムラくんが考えてやってくれている。「 ラックはこんぐらい欲しい 」とか、「 ポスターを飾るスペースが欲しい 」みたいな要望はいくつかお伝えしたと思うんだけど、あとは全部お任せ。
ムラくんは「 あまり作り込まずに、余白を残すことが大事だ 」って言っていたんだけど、当初はその意味がよくわからなかったんだよね。でも、使っていくうちに「 ああ、こういうことなのか 」と理解できるようになった。例えば、今ポスターを飾っている場所は、元々は棚があって、スタッフが作業をするスペースだったんだよね。今こうして使えているのも、ムラくんアレンジしやすいように余白を残しておいてくれたからなんだよね
すべてお任せだったんですか?
そう。やっぱり、尊敬するクリエイターだから、最低限の要望は伝えて、あとはお任せした方がいいと思って
作られていく工程は、見ていたのですか?
時々、見に来ていたけど、本当に現場なんで、すごくピリついてるし、僕が口を挟むようなことはなかったね
すげえ、m&m だと思った(笑)
そうした阿吽の呼吸で納得のいくものが仕上がったというのもスゴいですね。ムラさんのスゴさもそうですが、すべてをお任せする下野さんのスゴさもないとできない境地ですね
普段はお任せって、怖くてできないんだけどね(笑)
2010年にオープンしたということは、今年で13年目ってことですよね。オープン以来、どこもリニューアルしていないのですか?
うん、そのまま。何もしてない
木の色がいい風に変わってきたりとか、使っていくうちにどんどん良くなっているんだよね
事前告知なく記念アイテムを販売する理由とは?
MIMIC はストリートをマーケティング視点で俯瞰して捉えることもテーマの1つにあり、ここからは販売スタイルについてもフォーカスしていきたいのですが、周年記念などの限定アイテムを販売する際は、事前告知をせずに販売されていますよね?《 あんとき 》の裏原のように、今でもそうした販売スタイルを貫いている理由を教えてください
周年記念のアイテムは、その日にだけ買いに来るお客さんじゃなくて、いつも僕らをサポートしてくれる常連の子たちに買ってもらいたいという思いが強いから、あえて告知をしていないだけなんだよね。常連さんなら、毎年7月6日のブランドの周年記念と2月のお店の周年記念のタイミングでリリースされるのはわかっているから
でも、何が発売されるかはわからないですよね?
うん、店に入るまでは誰も何も知らない。並んでいる人にもわからないように、その日は外からお店の中が見えないように入口もカーテンで遮断してるしね
そうだね。だから、後ろの方に並んじゃうと、入店までに結構時間がかかっちゃうんだよね
はい、お買い物のドキドキが途中からトイレが我慢できるかな、というドキドキに変わっていきました (笑)。でも、そんなに丁寧に接客してもらえるなんて、お客さんは相当嬉しいでしょうね
商品の説明は結構しっかりするし、あとは常連さんの近況も聞いたりするからね。長い間ずっと通ってくれている子たちも多いから、最近こんなことがあってみたいな話もするし
お客さんのプライベート話的な?
そう。二人目の子どもが生まれたとか、そういう話は全然するかな
そんな風にある種の身内感を感じさせてくれる関係性を築いているお店って、今の原宿には少なそうですね
うん。でも、あまり近くなりすぎないようにも注意しているけどね。近くなりすぎると、お互いがつまんなくなっちゃうんで
確かにこのあいだも下野さんと話したいんだろうけど、なんかちょっと尻込みをするような様子を見せるお客さんもいて、絶妙な距離感を感じました
中には、20年以上通ってくれている子もいるんだけどね
さっきのムラさんの存在感の話じゃないですけど、やっぱり、お客さんにとって下野さんが憧れの存在であるからこその関係性なのかなと思うんですよね。ボクたちも若いときに、洋服屋の店員さんに話しかけてもらえると、なんだか認められたような気がしてすごく嬉しかったですし。
今はオンラインでのショッピングが普通になったり、接客もしっかりしてくれるので、試着どころか、お店に入るのにも緊張するような、ある種の試練というか、何かを乗り越えて成し遂げるような買い物の達成感を味わう機会は減っているんでしょうけど
でも、それはあの日、お店の周年記念に来てくれたから、そういう風に感じてくれたんだと思うんだよね。僕のインスタやメディアの文字情報を見ただけでは、絶対に伝わらない感覚というか
確かに。あの日、自分の前に20人ぐらいの人が並んでいたのですが、「 これなら1時間くらいで入れるでしょう 」と思って並んでみたら、数時間経っても全然入店できない(笑)。しかも、並んでいるお客さんはみんな顔見知り同士だから、ボクだけ「 この人、誰? バイヤー? 」みたいな感じでアウェイ感もすごかったですし(笑)。
今はワンクリックで何でも買えてしまう時代だけど、《 あんとき 》 の裏原みたいに、ある種のイニシエーションを経ないと商品を手に入れないというのは逆に新鮮でしたね。しかも、事前に何が出るかわからないワクワク感もあって、ボクは完全にその体験を楽しんでいました
でも、別に《 あんとき 》感を狙ってるわけでもないんだけどね(笑)
ボクらのように勝手に感じてしまう人がいるというだけですよね(笑)。それと 《 あんとき 》 にはなかった手法として、SNS の使い方が見事だなと思いました。
1回の入店では各アイテム1色しか買えないので、外ではお客さん同士が「 2周目に行こうか 」みたいな話をしていたのですが、下野さんが発売した商品を SNS にアップするのは常連さんが一通り入店し終わった後なんですよね。そこで初めて、どんなアイテムが発売されたか世間に好評され、常連さん以外のお客さんがすぐに押し寄せ、自分とは違うサイズのものだろうと買っていく (苦笑)。
そういう「 常連さんのため 」というスタンスにはすごく感銘を覚えましたし、今と《 あんとき 》の販売手法を上手に使いこなしているなぁと勉強させていただきました
続きは切り取り線をなぞってね!
コラム:《 あんとき 》の “裏原感” が漂う店内のポスターたち
ギターの左隣のポスター:
7STARS DESIGN が手がけた THRASHER ( スラッシャー ) とのコラボ作品
ギターの右隣のポスター:
KAWS ( カウズ ) と MEDICOM TOY ( メディコム・トイ ) のコラボブランド OriginalFake ( オリジナルフェイク ) のシルクスクリーン
上段真ん中のポスター:
WHIZ TOKYO 10周年の際に制作した STUSSY ( ステューシー ) とのシルクスクリーン。額装などの最後の仕上げはムラ氏が手がけた
上段右のポスター:
KOZIK ( コジック ) が手がけた藤原ヒロシさんと立花ハジメさんによるブランド、Hardcore ( ハードコア ) のポスター
右列下から2つ目のポスター:
同じく KOZIK が手がけた、マルクスを題材にした GOOD ENOUGH ( グッドイナフ ) のポスター
下段右のポスター:
7STARS DESIGN が手がけた一枚。千壽公久さんのセレクトショップ、MOTORWN ( モータウン ) で販売されたもの
下段真ん中のポスター:
こちらも 7STARS DESIGN が手がけた LUMP リニューアルを記念した76枚限定ポスター
真ん中下から2つ目のポスター:
7STARS DESIGN が手がけたシルクスクリーン。ピンストでランプという文字を描いてもらったもの
下段左のポスター:
MINORITY ( マイノリティ ) や VANDALIZE ( ヴァンダライズ ) のデザイナーを務めた一之瀬弘法さんからもらったという UNDER COVER ( アンダーカバー ) のポスター
左上のシルバーの額縁:
FAMOUZ ( フェイマス ) の神山隆二さんからもらったという、NGAP 缶に巻かれていたカバーデザインの色校
右上のミラー:
LUMP TOKYO の14周年記念の際に m&m に作ってもらったミラー
左の青いスケートデッキ:
事務所に KAWS が来たときに描いてもらったという一枚
裏原ブランドとのコラボにより生まれた、周年記念の名作アーカイブ
ここからは過去にリリースされた周年記念のコラボアイテムについて話を伺っていきたいと思うのですが、中でもボクらの方で事前に厳選させてもらった次の6点についてお話を聞かせていただければと。まずはこちらの STUSSY ( ステューシー ) とのコラボアイテムなんですが、これはいつリリースしたアイテムですか?
これはお店の10周年のときに製作したもの。だから、ちょうど10年前だね
アイテムとしては、モッズコートになるんですよね?
そうそう。ミリタリーのモッズコートの右袖を後染めして縫い変えて、胸に刺繍を入れて、背中にプリントを施してリメイクしたもの。本当は古着をいろいろカスタムしたかったんだけど、STUSSY の許可が下りなかったんだよね。でも、唯一、このデッドストックのモッズコートだけは許可をもらえて
この胸の刺繍はもしかして……
そう、憧れの STUSSY × Carhartt ( カーハート ) のコラボジャケットを意識したもの。実はこのときに、Carhartt のボディを使ったアイテムも作りたいと提案していたんだけど、残念ながら実現できなかったんだよね。右袖にはブランドのコンセプトである「 STORY TO GENERATIONS 」を STUSSY フォントで入れさせてもらえたんだけど
やっぱりモッズコートを作ろうと思ったのって?
GOOD ENOUGH ( グッドイナフ ) のモッズコートがイメージにあって、ああいう古着をカスタムしたアイテムを STUSSY でやれたら、ヤバいんじゃないかなと思って
あのモッズコートは名作中の名作ですもんね。下野さんのルーツ的にも少なからず影響を受けて誕生したアイテムというわけですね
特に公言はしていなかったけどね
特にこの左袖に縫い付けられたスクールマフラーなんかは、 GOOD ENOUGH のモッズコートを想起させるカスタムですね
これは( 藤原 )ヒロシさんと WHIZLIMITED の20周年記念で製作したスクールマフラーを僕が後付けでカスタムしたものなんだよね。《 あんとき 》の GOOD ENOUGH のモッズコートもスクールマフラーを解体して、袖に付けていましたしね
見る人が見ると分かるっていうのが、やっぱりいいですね
今の人たちに伝わっているのかは、正直わからないけどね。でも、このコートが発売されたときに、サイズが大きくて買わなかった子はいまだに買わなかったことを後悔しているって言ってたよ。
僕も GOOD ENOUGH のモッズコートが発売されたとき、たまたま MADE IN WORLD ( メイドインワールド ) の店内にいて、買うかどうか、すごい悩んだんだけど、「 モッズコートは違うかな 」って買わなかったことを後になってめちゃくちゃ後悔して。そのお客さんの姿を見て「 あっ、僕と同じことやっているな 」って思ったけど(笑)
個人的には「 Carhartt のボディに刺繍しただけ 」みたいな90年代前半によく見られた少し粗めのコラボが今まさに再燃中なのですが、下野さんの感覚から遅れること10年という修行の足りなさを反省しております (笑)。
続きましては fragment design ( フラグメントデザイン ) とのコラボアイテムになります
さっきもちょっと話に出たけど、WHIZLIMITED の20周年記念の際に、ヒロシさんにコラボを依頼してスクールマフラーとダッフルコートを作ったんだよね
ヒロシさんといえば、ボクら世代には Hermes ( エルメス ) のオレンジ色のダッフルコートのイメージがあります
画像引用:men’s non-no 1995年12月号 ア・リトル・ノーレッジ #3
どうしても 《 あんとき 》 の裏原と結びつけたいんだね(笑)
病気です、スミマセン(笑)。ダッフルをリリースしようとなったのは、下野さんからの提案だったんですか?
どういったアイテムを作りましょうか、みたいなやりとりするなかで、たまたま僕が高円寺の古着屋でスクールマフラーを見かけて、ヒロシさんにこんなのどうですか?って提案したのが始まりかな。でも、当事者の人たちって、なかなか昔の名作を復刻させるようなことはやりたがらないので、難しいかなと思ったんだけど意外とすんなりOKいただけて
やっぱり、ブランド20周年という記念すべき節目だったことも大きかったんですかね?
そういう特別なタイミングじゃないと、お願いできなかったと思うしね
生地も柔らかくて、すごい着やすそうですね
実はダッフルコートでありながら、着たときのシルエットはモッズコート風になるようにアレンジしているんだよね
そうなんですね!着心地もダッフルコートにしてはすごく軽いし、モッズコートをソースにするあたりも下野さんならではのオマージュですね
次は m&m のベースボールシャツなのですが、こちらも往年の名作として人気の高いアイテムですね
これは仙台にある ReVoLuTioN ( レボリューション ) というお店が2021年に40周年で。それを記念して復刻されたものなんだけど、そのうちの数枚だけ、この76バージョンで作ってもらったんだよね
当時のベースボールシャツよりも肉厚に仕上がっていますね
当時のベースボールシャツは empire ( エンパイア ) のボディを使っていたんだけど、これはオリジナルで製作されたボディだからね
個人的には裏原史上、五本の指に入る名作だと思っています。LAST ORGY 3 ( ラストオージー3 ) でもジョニオさんが着ていましたよね
画像引用:asyan 1996年6月号 LAST ORGY 3 #22
懐かしい(笑)
お次は、今年の初売りでお見えした BOUNTY HUNTER ( バウンティ ハンター ) とのスタジャンですね
インラインでは黒とグレーが発売されて、数枚だけネイビーを販売したんだけど、ヒカルさんと HIDDY さんには特別に黒ボディに白袖のものを製作したんだよね。バックに入った BOUNTY HUNTER のロゴも通常は刺繍なんだけど、スタッフと身内のはワッペンになっている
ナンバリングのスタジャン。関係者だけ袖の色が違うスタジャン。裏原好きの琴線に触れまくる仕様ですね (笑)
ナンバリングのスタジャンは毎年作っているんだけど、例えば、都市限定で1都市に5枚だけのスペシャルカラーを用意したりして、よりいっそう“みんなのスペシャルな一着”になるような工夫もしているね
胸のワッペンがまた最高ですね。古き良きというか、ここ最近では大人びたアイテムやグラフィックが増え、この手のキャラ立ちしたグラフィックはご無沙汰だったので、ものすごく新鮮に映ります
そうだね。ただ、うちのブランドのイメージとは少し離れたデザインだったから、常連さんたちに受け入れられるかが心配だったんだけど、いざ、販売してみたら、すごい人気で良かった。あと、左肩のワッペンは、昔、ヒカルさんが良く着ていたニューヨーク・レンジャーズのスタジャンのワッペンをイメージして作ったもの。袖口についているワッペンも昔から BOUNTY HUNTER を知る人にはお馴染みのワッペンで、身内用のちょっとだけ製作したものなんだよね
めちゃくちゃ懐かしいですね! まさにヒカルさん仕様の一着と言いますか
そう。僕が持っているヒカルさんのイメージを集約したようなデザインになっている。ヒカルさんに初めて見てもらったときには、胸のワッペンの仕上がりの良さも含め、ものすごく喜んでもらえて嬉しかった
仲間内と常連さんの双方から評判が良かったんですね
多分、これまでに作った記念アイテムの中で一番反響が大きかったんじゃないかな。僕がこんな感じにカスタムしたものをインスタでアップしたり、街頭ビジョンでも紹介されたりしたんで、いろんな要素が絡んで一番バズったというか、注目を浴びた気がする
お次は TAR とのコラボアイテムですね。元々、( TAR デザイナーの ) 関さんとはどういうつながりなのですか?
もともとは僕の高校の同級生が、GAS BOYS ( ガスボーイズ ) の弟分として知られる GWASSHI ( グワシ ) のメンバーで、彼らが TAR をよく着ていたから知っていたんだよね。その同級生は中学生の頃から関くんと仲が良かったから
そうだったんですね
そう。だから、関くんとつながる前から知ってはいたんだよね。それと偶然、うちの生産を担当している子が超 TAR っ子で、昔から関くんを知っていたこともあって、僕も仲良くしてもらったということもあるかな
このTシャツはいつくらいに作られたものなんですか?
これは76サミットのときに会場で販売する用に作ってもらったもの。古くからある羊のグラフィックや TAR 10周年ときのロゴを使ってもらったんだよね
最後は先日の WHIZ TOKYO の20周年記念で発売された、m&m と 7STARS DESIGN とのトリプルコラボのスウェットです。’00年代を過ぎると裏原も比較的メジャー感が出てきて、コラボにも既視感やビジネス感が漂うようになってきますが、m&m や 7STARS DESIGN がコラボしていた時代って、裏原が一番カッコ良かった時代だと個人的には感じていて
そうだね。本当に《 あんとき 》以来だから、それこそ25年とか30年とかぶりのコラボになるんじゃないかな
実際に《 あんとき 》に m&m と 7STARS DESIGN ってコラボをしたことってありますよね?
僕の知っている限りだと、過去に2回だけやったことがあるんだよね。当時、( 7STARS DESIGN の )堀内くんがよくピンストを描いていたんで、それを m&m がTシャツにしてリリースした伝説的な一枚もあったりして。
だから、ムラくんには 「 WHIZ TOKYO の20周年に合わせて、特別に 7STARS DESIGN とのピンスト・アイテムをリリースできないですか? 」 って前々からずっとお願いしていて。もともとは、当時、堀内くんが描いたピンストで、まだ復刻されていないデザインがあったんで、それを復刻させてもらおうとしていたんだけど、ムラくんから 「 せっかくなら、新しく描き下ろしもらおうよ 」 という提案があって。
めちゃくちゃ贅沢ですね
それで堀内くんに 「 これこれこういうプロジェクトでピンストを描いてほしいんですけど 」 ってお願いしたら 「 今はもう描いてないなぁ 」 というゼロの状態からまた手がけてくれて。僕の中に当時の堀内くんのピンストのイメージが鮮明に残っていたので、その理想像に近づけるために、何度もやり直してもらったりして申し訳なかったけど。でも、やっぱり特別な節目にリリースするアイテムだから、一切の妥協もなく完成させることができたのは嬉しかったね
裏原宿カルチャーがファッションシーンに残した一番の功績とは?
こうした記念アイテムを製作するときには、どんなことを考えているのですか?何か共通して意識されていることはありますか?
アイテムのことは全然考えてなくて、「 このタイミングで誰にお願いしたら、面白いことができるかな 」ということを考えているかな。別に大金をお支払いしてコラボをお願いするわけではないから、お互いのタイミングも重要だし、そのときに頻繁にやりとりできるような関係性を築いていることも大切じゃない?
そうした条件が揃ったなかで、「 じゃあ、僕がその人をイメージしたときに WHIZ の世界観と掛け合わせて、どんな表現ができるだろうか 」ということを意識するようにしているかも
でも、ここまでたくさんの裏原ブランドとコラボされてるブランドってなかなかないですよね?
どうなんだろうね。そもそも、裏原ブランドとのコラボ自体が今は数が減っている気もするけどね
いい意味で弟キャラといいますか。裏原の諸先輩方よりもひとつ下の世代なので、先輩同士より、下野さんが依頼することでうまく形になるということもありそうな
確かに (笑)。でも一方で、僕とコラボをしても76枚しか売れないわけだから、企画自体に賛同してもらわないといけない難しさはあるけどね
冒頭の m&m の話もそうでしたけど、普通だとやっぱりビジネスが目的になるのが当然ですもんね
でも、そうじゃないところで、いかにお互いが面白がれるかが重要で。僕自身も結局、いつも WHIZ をサポートしてくれる子たちをいかに喜ばせるかということしか考えていないから、僕のこの思いに賛同してもらえないと実現できないという
そのいつもサポートしてくれる人たちに届く、ちょうどいい枚数が76枚ということなんですね
そう。偶然にもそれくらいの枚数なんだよね
でも、もっと多く作っても売れちゃいますよね?
倍作っても売れるものもあるだろうね。でも、そういうんじゃないんだよね
そこがまたいいですよね。《 あんとき 》の裏原のブランドって、仲間内で着たいものを作っているインディペンデントな感じがすごく良かったじゃないですか。でも、その後、シーンがメジャーになるにつれて、そうじゃなくなるブランドも増えていきましたけど、WHIZ にはいまだにそうした古き良き伝統がある。今どき、本当に珍しいですよね
だって、無駄な労力だもん(笑)。コラボって、めちゃくちゃ神経使うし、しかも相手が大先輩となったらなおさらだよ。絶対失敗できないし、売れ残って相手のブランドイメージを傷つけることも許されない。むしろ、コラボをしたことで相乗効果を生み出せないといけないから
そういうプレッシャーありますか?
めちゃくちゃあるよ。毎回、記念日の前日の夜は、すごい嫌だもん(笑)。誰も来なかったらどうしようとか、売れ残ったらどうしようとか。どんなすごいアイテムを作ったとしても、それはいつも変わらない。事前に告知をしていない分、お客さんの期待値も高いわけだからね
お客さんはコラボ相手のことはよく知っているのですか?
いや、みんながみんな、知っているわけではないと思うよ
中には WHIZ とコラボしたことで新しくそのブランドを知ったというお客さんもいるわけですね?
それもあると思う。僕がコラボをするということは「 相当好きなブランドなんだろうな 」と思ってくれてると思うし。例えば、先ほどの m&m と 7STARS DESIGN と作ったピンストのスウェットなんかは、このアイテムのリリースをきっかけに m&m や 7STARS DESIGN のヤバさを知った人も多かったみたいだし。
店頭ではただアイテムを売るだけじゃなくて、どうして僕がこういうアイテムを作ったのかもしっかり説明するしね。じゃないと、文化が続いていかないというか。ただ単発でやってるわけじゃなくて、’90年代から連綿と続く裏原の文脈があるからこそできるコラボだからね
それをECサイトの紹介文で載せるのではなく、下野さんご自身がお店でちゃんと説明してくださるところにとてつもない価値がありますよね。本当の意味での文化の継承と言いますか
でも、相手先のブランドは本当によく協力してくれるなと思いますね。素直にすごいと思う。普通だったら、そんなのお前のエゴじゃんで終わりだからね
そこがご自身のエゴではなく常連さんを喜ばせたいという純粋な動機だから、相手先のブランドも心が動かされているんじゃないですか? しかも下野さんの場合、さっきの BOUNTY HUNTER の話のように、コラボ相手も喜ばせようとしていますし
少しでも喜んでもらえたら、嬉しいですけどね
それでは最後の質問になるのですが、今再び裏原が注目を集めていると思うのですが、下野さんは当時を振り返って、どのような印象をお持ちですか?
裏原は日本のファッションシーンに文明開化をもたらしたと思うんです。裏原以前は、オシャレって、ちょっと不良っぽい人だったり、相当カルチャーに傾倒している人だったり、一部の人たちのものだったじゃないですか。それが裏原がメジャーになって、GOOD ENOUGH や APE といったブランドが人気になると、それまでファッションに興味のなかった人たちまでオシャレに参加するようになった
確かに裏原系のブランドのTシャツにジーパンを合わせるだけでサマになるという手軽なファッションスタイルが発明されたことで、オシャレに参加するハードルがグッと下がりましたよね
そう。だから、あれほどまでに大勢の人を巻き込むことができたと思うんだよね。しかも、芸能人やモデルのような優れた見た目をしていなくても、オシャレになれるというのは画期的だった
昨日までオシャレに興味ないような子が、急に APE のTシャツとか着出しましたよね。後にユニクロが多くの日本人をオシャレにしたように、実は裏原ブランドが多くの若者をオシャレにしていたというか
もしかしたら、みんながみんな、裏原について深く知っていたわけではないかもしれないけど、どこどこというお店に並んで、そこで売っているTシャツさえ着れば、オシャレと認識してもらえるという手軽さは、それまでのオシャレには存在していなかったと思うんだよね。
もちろん、その舞台裏では、多くの類まれな才能が集まってシーンを形成していたというエピソードはいくらでもあると思うんだけど、裏原の一番の功績は、誰でもファッションを楽しめる世界を構築したことにあると思うんだよね。それと男の子がオシャレに興味を持つようになったのも、裏原がファッションにカルチャーを融合させたからだと思うしね
今日はいろいろと話をお伺いさせていただき、ありがとうございました!
この記事を読んで、古き良きスタイルでお買い物のドキドキやワクワクを楽しみたいと思った方は、2月のお店の周年記念と7月6日のブランドの周年記念に足を運んでもらえればと思います。そしていつか MIMIC でも、そのようなコラボアイテムを超限定で作れるように精進していきます。
こちらこそ、今日はありがとう!
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