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ANARCHIC ADJUSTMENT|パンク、レイブ、スケートボード。当時のロンドンのユースカルチャーを内包したアナーキック・アジャストメント

《 あんときのストリート 》を発掘|MIMIC ( ミミック )
野田

今回は今のロンドンを代表するブランド、Palace Skateboards(パレス・スケートボード)とのコラボレートも記憶に新しいANARCHIC ADJUSTMENT(アナーキック・アジャストメント)についてなんだけど

高柳

以前、書いた SLAM CITY SKATES ( スラムシティスケーツ ) の記事でも触れたとおり、アナーキック・アジャストメントのデザイナーであるニック・フィリップは、ロンドンスケーターのバイブルとなったエクストリームスポーツの専門誌『 RAD( READ AND DESTROY )』という雑誌のエディトリアル・デザイナーを務めていたんですね

SLAM CITY SKATES|独自の進化を遂げたロンドンスケートシーン代表スラムシティスケーツ

遠山

デザインだけではなく、ブランドの立ち上げもニック・フィリップが担当したの?

高柳

どうやら、オーナーはサンフランシスコに’80年代当時住んでいたのアラン・ブラウンという方だったようですね。当時流行り出していたBMXやスケートボードなどエクストリームシーンに前向きで建設的なメッセージを発信したいということで、若くてイケてるデザイナーを探していて、海を超えてニック・フィリップにたどり着いたようなんです

瀬戸

僕は世代的にもアナーキック・アジャストメントって全然分かっていないんですけど、日本だと、どれくらいの時代にどういう人が着てて、どういう感じで人気になったブランドなんですか?

遠山

当時だと1990年前後くらいに雑誌『CUTiE(キューティ)』で連載してた藤原ヒロシさんのコーナー「HF ADJUSTMENT(ヒロシフジワラ・アジャストメント)」でキョンキョンに着せたり、よくピックアップしてたよ

高柳

藤原ヒロシさんが紹介して人気が出て、その後はテクノキッズ御用達のブランドとして確立されていくんだよね。当時はあんまり「これはテクノのブランド」「これはヒップホップのブランド」みたいな線引きが曖昧で海外の新しいブランドとかアイテムには、みんな何でも飛びついていたイメージはありますよね。

藤原ヒロシさんもスケボー雑誌『RAD』のエディトリアルデザイナーが作ったブランドだからスケーターの分脈として紹介したのか、それともクラブ系ブランドの文脈として紹介したのか、今考えると分からないけど

遠山

人気が出た、つってもごく一部だけどね、当時は(笑)。とにかくスケートもクラブミュージックもひっくるめて当時、藤原ヒロシさんはロンドンシーンの最前線をかなり追ってたっぽいからね

野田

ラフォーレにお店もできましたよね。94年くらいなのかな。2007年にも1回復刻のTシャツがリリースされてて

瀬戸

アナーキックが出てきたのって、みんながSEDITIONARIES(セディショナリーズ)を着てたくらいの時期ですか?

野田

セッズ(セディショナリーズの略)自体は76年になるのかな。それで80年代に復刻が出てくるので、この流れはその後なんじゃないかな

遠山

Vivienne Westwood(ヴィヴィアン・ウエストウッド)とかセッズも、みんなが着てたっていうよりも一部の服飾系とかデザイン系の専門学生から特に支持されてた感じなんだよね。80年代後半にもなるとSTUSSY(ステューシー)とかも出てきた頃で、アナーキック・アジャストメントは渋谷のDJ’Sチョイスとか吉祥寺の33に売ってた。で、この大きめのTシャツにチェックのショーツってのが当時のスケーター系クラブキッズスタイルっていうイメージ

高柳

海外だとアナーキック・アジャストメントやGio-Goi(ギオゴイ)、日本だとTARなんかが先陣を切っていたイメージです。それとこれは個人的なイメージなんですけど、アナーキック・アジャストメントってTシャツよりもロンTのイメージが強くないですか?

野田

それはあるね。当時、袖にプリントが入ったTシャツって珍しかったので。そういう意味でもロンTの新しい着方みたいなのを提示してくれてよね。

あとパレスとのコラボでもモチーフに使われた有刺鉄線のグラフィックはアナーキック・アジャストメントを象徴するデザイン。お馴染みの首回りはもちろん、ロンTには袖にも使われていたもんね。やっぱり売り切れるのもこの辺のデザインからだったし、みんなよく分かってるなって ( 笑 )

瀬戸

それとSupreme ( シュプリーム ) とのコラボで再び脚光を浴びた『AKIRA』のグラフィックの元祖もアナーキック・アジャストメントと聞いたんですけど

野田

そうだよ。俺がちょうど中学か高校くらいの時に着てたもん、茶色のアキラくんのグラフィックのやつ。

画像引用:メルカリ

あの有名な鉄雄のやつは手に入らなかったけど

画像引用:メルカリ

高柳

イギリスでどんどんレイブとかが盛んになってきて、それで『AKIRA』の、いわゆるドラッグカルチャー的なモチーフと、レイブカルチャーがリンクしてきて、グラフィックのネタとしてはそういうの使い始めたっていうところもあるんでしょうね

遠山

今買うと10万円とか20万円とかするんでしょ?なんでそんなに人気あるんだろ

高柳

アナーキック・アジャストメントって、今再評価されるべきタイミングなんですかね。パレスがコラボしたってことはイギリス国内でも再評価されているっていうことなんでしょうし

瀬戸

ちなみに、アナーキック・アジャストメントって、いわゆるパンク的な要素もバックボーンとして持っているんでしょうか?

遠山

「アナーキック」なんてワードを使ってる時点でパンク流れっていうか、そういった音楽カルチャーの系譜はあるんじゃないかな。やっぱりロンドンていうかイギリスの音楽って世界的に見て最先端だったところがあるわけじゃん。だから70年代にパンクミュージックが最先端だったのがそれ以降ポストパンクとかテクノポップなんかが出てきてクラブカルチャーが形成されつつレイブが現れてきたみたいな流れはあるんじゃないかね

高柳

KLFを経由してみたいな感じですか?

遠山

そうそう

瀬戸

でも、どうしてパレスは、そんなレジェンド的なブランドであるアナーキック・アジャストメントとコラボすることができたんでしょうね?

高柳

おそらくスラムシティスケーツに源流があるんでしょうね。ロンドンでラフトレードともリンクしたスラムシティスケーツは、ロンドンのスケートボードと音楽のレジェンドですからね。ある意味、スラムシティスケーツの子孫ともいえるパレスは、音楽寄りのアナーキック・アジャストメントと繋がりがあっても不思議じゃないですよね。あくまで想像ですけど

遠山

しっかし、改めて当時の「ヒロシフジワラ・アジャストメント」を読み返すと、1990年頃にこんなカッコしてる人を見たら、半端なくおしゃれでただ者じゃない!って思うよね。今でも全然通用するじゃん

野田

まんまいけますよね

遠山

でしょ! 本当にカッコいいじゃん。俺的にはストリートファッション革命だったんじゃないかなと思ってるくらいだよ

瀬戸

イギリスでもみんなこういうカッコだったんですかね?

遠山

ニューヨークなんかの情報もじわじわ入ってきてスケボーも流行り始めた頃だから「スケーター+クラブ系+ロンドン」みたいに混ざりあって、こういう東京クラブキッズみたいなスタイルが確立されていった感じだから、オリジナルなんじゃないかなぁ

野田

そうですね、遠山さんが言うように、これぞ「東京クラブスタイル」って感じ

高柳

確かにそれは言えていると思います。Youtubeとかでアナーキック・アジャストメントと同時代のレイブ映像とか見ると、結構ファッションとかひどくて

遠山

どういう感じなの?

高柳

ケミカルジーンズにTシャツ・インみたいなスタイルで、すごい悪そうに見えますね

遠山

向こうのヤンキーみたいな?

高柳

はい、完全に向こうのヤンキーです。おしゃれとは程遠い感じです

遠山

たぶん、それがこの頃の一般的なカジュアルファッションなんだよ。日本でもまだケミカルウォッシュのジーンズ全盛だったと思うし。それこそ吉川晃司よろしくサイドバックヘアに、ダブルのスーツとか。初期『あぶない刑事』とか安全地帯みたいなイメージかな。

だからこそ、そうした中でこの藤原ヒロシさんのスタイルっていうのは、超レベル高いと思うのね。例えば過激なパンクファッションで、俺はお前らとは違う!特別なんだ!っていう主張をするところから、その1つ先に進むと今度はこういう、いわゆるラフな感じというかもっと自然体のお洒落が出来上がってくるのかなーって

野田

80年代後半、特に87年ってけっこう転機なんですよね。世間のアメカジ、渋カジブームを横目にTARの立ち上げ、フリッパーズ結成、ラストオージーの連載と歴史的な出来事が次々とスタートした時期で。ボクは2〜3年後にここのシーンを知ることになるんですけど、ヒロシさんのコーディネートはホントに正解を見せてもらった気がして衝撃だった

瀬戸

なるほどっすね

遠山

’80年代中期くらいまでって、まだストリートファッションの定義がなかったんじゃないかな。それよりも、俺はパンクスだからとか、俺はヤンキーだからとかっていう主張が重要だったかもね。

でもそれはごく一部の少数派で、一般レベルでいったらケミカルウォッシュジーンズに英字新聞柄のシャツみたいなスタイルでも十分オシャレだったと思うよ(笑)。冬になると、みんな一世風靡セピアみたいな長いコートを着るわけよ。あ、でもいま一世風靡見るとマッドネスとかの2TONE SKAみたいでカッコいいな(笑)

瀬戸

確かに、その中でこれは異色ですね

遠山

だから、『キューティ』の藤原ヒロシさんの連載で紹介されるカルチャーもそうだけど、完全に異端というか、特殊枠みたいな感じ。これが世間一般の若い人達のファッションの大半を占めるものじゃなくて、ほんとにマイノリティ。そんなアングラ層の人達が好んでいたもののひとつにアナーキック・アジャストメントがあったと思うんだよね

野田

アナーキック・アジャストメントにグッドイナフ、TAR、ステューシーを加えたこの4つのブランドは黎明期の四天王、ここから《あんときのストリート》が始まったことは間違いないですからね。なにげにアナーキックの次のコラボは近いとこにいるキム・ジョーンズ、つまりディオールだったりして (笑)